海外で子育てするのって、そんなにいいことですか

Sae Morita
Jan 24, 2021

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Photo by Erik Dungan on Unsplash

「日本に帰ろうかな」と思ったのは、3週間ほど前のこと。1週間ほど悩んでいたけれど、まあ、悩んでいるときって、最初から結論は出ているものだ。

案の定、日に日に「日本に戻ったら何をしようか」と考えるようになってきた。それはカナダに住み続けることや、カナダの永住権を取得することよりずっとウキウキすることのように思えた。

後悔しないか何度も自分に問いかけたけれども、「後悔してもいいから帰国してみたい」と思ったので、やっぱり帰国することにする。

私たちがカナダにきた理由で大きいものに、息子の教育、というのがある(一番は親の好奇心だけど)。

教育というのはつまり、

自尊心を持ち、他者を尊重し、「男である」というだけの理由で無闇に威張らない人間になってほしいということ。

あと、教育費が死ぬほど安いのも嬉しいし、さらに、ちょっと庶民的すぎてやや恥ずかしいのだけど、英語/フランス語/日本語のトリリンガルになったらかっこいいねとかも思った。

要するに、手持ちのカードが多くて、優しい人間になって欲しい、と思っていたわけだ(どんな親でも似たようなことを考えるのではないかと思う)。

カナダにきて生活してみて分かったのだが、カナダ人の男全員が他者を尊重できるわけではない。「もっと痩せろよデブ」ぐらいのことを彼女に言ってしまうような人間はカジュアルに存在する。「男である」というだけの理由で無闇に威張る男もいっぱいいる。セクハラもいっぱいあるし、それに黙って耐える女の子もいる。

そして残念なことだが、カナダで日本語教育をするよりも、日本で英語教育をするほうが、何倍も簡単だし安上がりだった。

バイ/トリリンガル教育については特に語りたい。

カナダにくるまで実感として分からなかったのだが、子供を海外で「普通に(=周りのネイティブの子供と同じように)」育てているだけでは、トリリンガルを育てることはできない。

喋れなくなるのはもちろん日本語だ。外で使わない言語は優先順位が低くなる。

別に日本語なんて理解できなくてもいいようなものだけれども、自分のルーツである文化を理解できないまま生きるというのは、子供によっては悲しく感じられることもあるだろう。

が、日本語を子供に習得させるのはかなり難しい。親が金・体力・時間ともに余裕があることと、さらに、その子に言語学習における適性があることが条件。

正直、運の要素が強すぎると思う。

もちろん反論として「たとえばメキシコからきた移民は、そんなに親が苦労しているようには見えないけど、スペイン語/英語/フランス語の3言語を喋ってるよ」というようなことを思う人もいるだろうけれども、日本語習得の難しさをなめるなと言いたい。

他のアルファベット言語とは全く異なり、日本語は「文字を覚える」というだけのことにかなりの労力を割かなければ、読み書きの技能を習得できないという、世界でも珍しい言語だ。

こういう言語を習得させようと思うと、親は、小学校から中学校までぐらいの期間で、子供が学校で習ってくる「国語」の授業の内容を、自宅でフォローアップする必要がある。このほかにも、絵本をたくさん買って読んであげたり、日本語学校に通わせたり。金も時間も体力もかかる。言わずもがな、かなりしんどい。

しかも、このフォローアップを、親自身も慣れない異国での生活を送りながら続ける必要がある。失敗したら子供のアイデンティティが失われるかもしれないという強い恐怖とストレスのもとで。

この間もちろん、子供はネイティブの子と同じように勉強をしなければならないし、習い事だってしたがる/させたくなるかもしれない。友達と遊びたいかもしれない。思春期に突入したら、親が日本語の勉強を強制させるのは不可能に近いはずだ。

親も子供も、好きでなければ続かない。重ね重ね、運の要素が強すぎると思う。

一方、日本人が、日本で生活しながら英語を習得するのはそんなに難しいことではない。

小さい頃から英会話教室に通わせたり、語学留学に行かせたりすればいいだけ。習い事の一つという感じだから、親の負担はそこまでかからない。「失敗したら子供のアイデンティティが失われる」みたいな悲壮感もない。

何しろ私だって正直なところ、本腰を入れて英語の勉強を始めたのは息子を産んだ3年前だ。

3年後の現在、すでに現地のネイティブが言っていることは90パーセントぐらい理解できるし、普通に談笑もできる。友達もいる。英語が「使える」状態だと思う。

加えて、2年前にゼロから勉強を始めたフランス語も、今では、まあネイティブと意思疎通ができる程度には使うことができる。

この程度でいいのではないか、と、個人的には思う。もっと世界を広げたいと思えば、それはそのときに子供が自分で勉強をすればいい。

親は、たとえば、勉強に金をかけるのはいいことだ、と子供に思わせるとか、勉強をするのはいいことだ、と思わせるとか、そういう、メンタル面からのサポートを行えばいいのではないか。

言語以外の面でもそうだ。カナダに住んでみて、正直まあ、日本の教育とカナダの教育にそこまで差があるとは思えなかった。

住む地域や通わせる学校さえ間違えなければ、日本での教育はそこまでひどいものではないように思う。

正直なところ、海外においても、住む地域や通わせる学校のチョイス次第で、子供が差別されたり、学力がつかなかったり、ひどい先生に当たったりすることは普通にある。

海外ではさらに、いい学校に入ろうと思えば、死ぬほど家賃の高い学区に住まなければいけなかったりする。移民同士で情報収集ネットワークを築く必要も出てくる。

そう考えると、情報収集がしやすい分、日本で子育てをしたほうが「間違える」確率は減るのではないか。

ぶっちゃけ、日本人が思っているほど、日本は「終わった」国ではない。

治安もいいし、戦争や紛争の危険も低い。教育もそこそこしっかりしている。

仮に他の国で教育を受けたいと思ったとしても、まあまあ頑張って働けばそのための費用を貯めることができる。

考えが保守的だとか言われるけど、若い子供たちは、リベラルな考え方を当たり前のものとして受け止めるようになっている。そもそも、社会を良い方向に変えていくのは私たち大人たちの義務だ。

海外で子育て、個人的にはあんまりおすすめしない。親がその国に住むことに強い喜びを感じていたり、その国に住まなければならない事情がない限り。

子供に英語を学んで欲しいなら、小さい頃から毎日オンライン英会話教室を1日25分ぐらい続けさせたらいい。それだけで結構英語力はつくように思う。

優しい子供になってほしいなら、パートナーとよく話し合って、お互いを思いやって優しくしあえばいい。リベラルな考え方を持ってほしいなら、自分たちがリベラルに振る舞えばいい。

カナダにいても、クソみたいな男はいっぱいいる。ホモソーシャルな価値観だって存在する。

一方で、私の夫のように、日本生まれ日本育ちでも、他者への思いやりを持って、ホモソーシャルな価値観と一歩距離を置いている人間は存在する。

要するに、カナダでなければ得られないことなんて存在しないのだ。

まあ別に、カナダにきたのも、日本に帰るのも、教育だけが理由ではなくて、というかむしろやっぱり一番大きいのは、親側の理由が大きいのだけれども。

とにかくまあ、海外で子育てすることって、巷で言われているほどメリットがあるわけでもないよな、と思った。

そんな感じです。

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Sae Morita
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Written by Sae Morita

japanese / Writer / Graphic designer / student in beauty industry / based in montreal, canada🇨🇦 / Mom of a boy / lesbian

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